百厘経済政策研究所

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日本の現在と将来について(2)

 日本に訪れているこの苦境を打破するためには、何が必要なのでしょうか。

 そもそもGDPは労働者数との相関が強いことが知られています。GDPは付加価値の合計であり、付加価値合計を人口で割ると、一人当たりの付加価値が計算できます。これを生産性をいいますが、GDPを生産性を使って表すと

GDP=生産性 x 人口

となります。つまり、人口が増えるのであれば、たとえ生産性が低位安定だとしてもGDPは増加していくことになります。

 日本の高度経済成長を成し遂げた要因の一つには急激な人口増加があると考えられます。そのような時代の経済政策や経営戦略においては、定型化された方法を微調整しながら継続していくことが重要であり、これは日本人が得意とする分野でした。1955年から1972年までの実質経済成長率は平均9%以上もあり、その間の労働年齢人口は55百万人から74百万人まで増加しています。

 しかしこれからの日本の様に人口が減る場合には、生産性の方を大幅に上げることで、GDPを引き上げる必要があります。そのためには、決まった方法を改善する程度では足りず、抜本的に構造を変革し、新たな方針や戦略を導入する必要があります。そのためには何をターゲットとすべきかを知るために、生産性とはどのような要素で構成されているのかを明らかにしましょう。生産性の定義式を変形をすると、

生産性= GDP / 人口

   =(GDP/労働者数)x(労働者数/人口)

   =(GDP/労働時間)x(労働時間/労働者数)x (労働者数/人口)

という数式が導かれます。3行目の意味は、

生産性=時間当たり労働生産性 x 平均労働時間 x 労働参加率

ということであり、つまり社会全体の生産性は

①労働1時間で生み出す付加価値

②労働者1人あたりの労働時間

③社会全体で働く人数

という3要素によって決まることが分かります。

 まず②に関して、労働者1人あたりの労働時間はここ30年ほどの推移でみると、減少傾向にあります。これは、残業時間の減少や非正規社員の増加などの影響があると考えられます。

 一方で③労働参加率は近年、増加傾向にあります。これには、特に女性の人生における多様化が進み、仕事を長く続ける人が増えたことや、男性の給与だけで生活していくことが難しくなったことに伴う女性の労働参加率上昇などが影響していると考えられます。

 ②③に関しては上記以外にも多種多様な要素が含まれていますが、いずれにしても今後、労働年齢人口が減少していくことを考えると、働く意欲や能力がある全ての人が働けるようにすることは重要です。

 例えば子育てや介護などが原因で働きたいのに働けないという状況の人たちのために、保育所や介護施設などを整備していくことは有効な対策です。制約が無くなり働けるようになることで生み出される付加価値に加えて、保育所や介護施設から生み出される付加価値も増加するため、GDPに対してはプラスの効果があります。そのために保育所や介護施設の労働待遇を改善しなければなりません。

 また国際比較では遅れていると言われる女性の社会進出に関しては、日本の社会全体でそれを促す意見と反対する意見とが対立する場面が見られ、また法制度的にも例えば扶養控除制度がその足を引っ張っているという意見もあります。当然のことながら、個人や家庭の選択として家事専業を選ぶことについて周囲が非難をすべきではありませんが、働きたいのに働けないという状況の人たちを減らす必要があることは間違いありません。

 以上の様に②③に関する対策が必要なのはその通りですが、ではその改善の余地はどの程度あるでしょうか。

 女性と男性を合わせた労働年齢人口(現在約73百万人)が減少していくスピードはとても速く、先ほどの通り、40年間で約4割に当たる約30百万人が減少します。

 総務省による「労働力調査」(2020年)によると、15~64歳の就業率は77.3%であり、女性に限ると70.6%となっています。単純に考えると現状で労働年齢人口の約15%しかない就業していない女性の何割かが就職したとしても、社会全体の労働参加率を上昇させることはできません。労働参加率の分母には高齢者が含まれ、労働年齢人口ほどは減少していかないためです。つまり、③労働参加率に関しては下落するのはほぼ確実で、あとはどこまでそれを遅らせることができるかという改善しかできなさそうです。

 ここまで考えてみると、まだ触れていない①の「時間あたり労働生産性」を改善する余地はどの程度残っていて、またその実現可能性はどの程度あるのかが気になります。

 というより、率直に言うと、現状のGDP水準を維持するためには、②③には大きな期待ができない以上、①を劇的に改善させるしか方法がありません。

 したがって、ここまでの議論を要約するなら、「このままでは現状の社会制度や秩序は崩壊する恐れがあり、それを防ぐには、労働生産性を劇的に上昇させるしかない」ということになります。

 このBlogでは、以上の現状認識を踏まえ、これから労働生産性を大幅に向上させていくにはどうすればよいのかについて考え、施策を提案していきたいと思います。