百厘経済政策研究所

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所得増大シリーズ 第1章 日本の現状

 A社、B社という2つの企業があるとします。企業規模の面では両社ともに巨大企業であり、多数の事業部門で様々な事業活動を行っています。
 A社は業績が右肩上がり、国内外から優秀な人材が入社を希望し、従業員数は増え続けています。平均賃金も増加し続けています。ただし、給与以外の諸手当は無く、健康保険制度や、退職後の企業年金制度もありません。
 B社は業績が横ばいで、国外からの入社希望者はおらず、従業員数は減少傾向にあり、平均年齢は上昇しています。しかし諸手当は充実しており、交通費支給、企業健康保険組合あり(退職後は拠出なしで継続加入)、退職後の企業年金制度も充実しています。ただし、健保組合単体の収支は大幅な赤字であり、企業年金制度の負債額は多額になり、企業財務を強く圧迫しています。

 そして両社の平均賃金は、A社が7百万円、B社が4百万円です。さて皆さんは、どちらの企業で働きたいでしょうか。

 


 もうお分かりの方もいらっしゃるかもしれませんが、このA社B社は二国家の比喩であり、その国名は、米国と日本です。

 平均賃金の大差に愕然としてしまいますが、気を取り直し、日本人の平均賃金(ここでは、役員報酬、従業員給与・賞与など、組織で働く人が勤務先から受け取る収入を意味しています)は、世界的にみてどの程度なのかを見ていきます。

 先進諸国を中心に構成されているOECDの加盟国35か国で比較したグラフ(下記)の通り、2020年の実績で日本はなんと、下から数えた方が早い22位(38,515ドル)であり、1位の米国69,392ドルに対して約56%、OECD平均49,165ドルに対して約78%しかありません。
 日本のことを経済的に豊かな国であると誤解している人も多いかもしれませんが、とうの昔に、そんな時代は終焉しています。
 お隣の国、韓国についてはどう思っているでしょうか。IMFからの資金支援を受けることになった1997年の経済危機をご記憶の方も多いかもしれません。経済的に日本に追いつこうと頑張りつつも、まだまだ先進諸国の仲間入りは難しい、などと思ってはいないでしょうか。日本を上回る19位、41,960ドルです。

 

 なおここでの平均賃金は、購買力調整後の金額となっており、物価水準により調整されています。例えば日本で1,000円のものが米国では15 USDだったときには1 USD=66.6円が換算レート(購買力平価)となるため、日本での賃金収入3百万円は45,000 USDとして集計されます。
 つまり平均賃金の国際比較において「アメリカは物価が高いのだから、2倍の給与をもらっても意味がない」という話にはならない、ということです。

 ただし、米国は社会保障制度が充実しておらず、生活のためには医療や老後支出などの面で、国民自身の負担は大きいと言えるため、賃金水準の比較対象として好ましくない部分もあります。


 そのため、国民の所得や負担を考える際の比較対象としては、社会保障が充実し、また同じく高齢化が進んでいるヨーロッパ諸国が適当と考えられます。
 それでは、EUの中心たるドイツやフランス、あるいはイギリスやスイス、オランダ等に対してはどうなのでしょうか。
 上位順に、スイスは4位(日本はその59%)、オランダは5位(日本はその66%)、ドイツは11位(日本はその72%)、イギリスは14位(日本はその82%)、フランスは17位(日本はその85%)です。

 30年前はまだ先進諸国の水準でした。1990年には日本は36,879ドルで12位、OECD平均36,941ドルを、かろうじて上回っていました。
 ここからOECD平均が33%増加しているのに対し、日本はわずか4%増であり、ほぼ成長していません。まさに失われた30年であり、日本は、他のライバル達が着実に成長している中でぽつんと取り残されています。

 

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 所得増大シリーズでは、この日本の現状を踏まえ、どうすれば給与水準が上昇し、豊かな社会を実現することができるのかを考えていきます。

 

続き(第2章)はこちらから。