百厘経済政策研究所

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需給ギャップから見る日本の現状

 

経済成長の足かせは?

 皆さんは、日本の経済成長が停滞しているのは、消費者の需要が足りないせいだと思いますか? それとも企業の供給が足りないせいだと思いますか?

 マクロ経済データを見る限りでは、「需要と供給の双方が停滞しているが、より停滞しているのは需要である(特に近年のコロナ禍では)」という言い方ができると思います。

 根拠データを確認してみましょう。日本銀行のWebサイトにて、需給ギャップと潜在成長率についてまとめられていますので、数値やグラフを引用しつつ、状況を検証していきます。

www.boj.or.jp

需給ギャップ

 需給ギャップは、次の式で算出されます。

需給ギャップ =(総需要-供給力)/ 供給力 
 この算定のためには、総需要に実質GDPを、供給力に潜在的なGDPを用います。
 供給力を表す潜在的なGDPとは、「製品やサービスを生産するために必要な各生産要素を、過去の平均的な水準で投入した場合に実現されるGDP」を推計したものです。これは今後ある程度の期間にわたって持続可能な経済規模であると考えられるため、潜在的なGDPと呼ばれるわけです。
 もし需要ギャップがマイナス(需要 < 供給力)であれば、不況により、財やサービスの需要が供給力を下回っていることを意味します。

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 年によってプラスになったりマイナスになったりしていますが、近年は概ねマイナス傾向、かつコロナ禍以降は特に深めのマイナスになっていることが読み取れます。

 これはつまり、年によって需給の大小関係はまちまちではあるものの、近年は需要が足りていない状態、かつコロナ禍以降は特にその傾向が顕著である、と言い換えることができます。
 ただし、ギャップの程度は2000年以降を平均してせいぜいマイナス1%弱であり、コロナ禍以降でもマイナス1~5%程度となっています。日本のGDPが約500兆円であるため、不足している需要は2000年以降で平均してせいぜい数兆円程度、コロナ禍以降でも5兆円~数10兆円程度であると解釈することができます。

潜在成長率

 もうひとつ、データをみてみましょう。

 潜在成長率とは、需要側をいったん無視して考えた、供給力の成長率です。つまり、先ほど出てきた「潜在的なGDP」の増加率のことです。

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 1980年代バブル経済期には5%近くにまで迫っていたものが、近年は限りなく0に近づいていることが読み取れます。直近2021年2Qのデータでは、潜在成長率は+0.08%です。なぜこうなっているのかを考えるため、
潜在成長率=資本ストック成長率+労働力成長率+TFP成長率
と分解します。TFPとは「全要素生産性」とも言われ、イノベーションにより生産性を向上させることです。
 過去の各要素趨勢をみてみますと、まず資本ストックについては、概ね増加基調ではあるものの、特に近年では停滞しており、TFPに比較すると成長率は低いと言えます。

 次に労働力は下落傾向にあります。労働力を就業者数と平均労働時間に分解すると、就業者数は2012年以降プラス転換していますが、平均労働時間は2000年以降一貫して下落を続けており、総合して労働力としては下落しています。
 これは推察するに、「2010年代まで継続した円高基調もあり、製造業は国内工場等の積極的な海外移転を図り、国内の雇用吸収力は弱まってしまっている。ただし近年の雇用規制緩和もあり非正規職員の割合が高まることで、就業者数としては増加基調にある一方で、平均労働時間は大きく下落基調に入っている」という見方ができます。
 最後に、TFP(全要素生産性)は一貫して増加を続けています。国際的にみても、成長率として決して劣っているわけではありません。
 直近2021年2Qについて数値を示しますと、次のようになります。
潜在成長率+0.08%
=資本ストック成長率△0.09%+労働力成長率△0.42%+TFP成長率+0.58%

まとめ

 日本国内における実際の需要と供給力を比較すると、需要の方がより低いところにあるため、需要を刺激することによりGDPを拡大することが可能です。
 ただしその拡大幅は直近でせいぜい10兆円弱であり、より一層の拡大を果たすためには、あわせて供給力も拡大しなければなりません。
 潜在成長率はほぼ0近辺で停滞しており、主たる要因は総労働時間の減少です(就業者は若干増加しているものの、平均労働時間が大きく減少)。技術革新により全要素生産性は伸びているものの、資本ストック投入量も停滞しているため、労働力の減少を補って余りあるほどではなく、結果として潜在成長率は概ねトントンの水準に留まっています。
 全要素生産性成長率については既に国際的に比較しても一定の水準にありますし、また労働力については、今後日本の明らかな少子高齢化社会を考えるに、拡大は非現実的でしょう。
 したがって供給力を拡大するためには、設備投資により資本ストック投入量を拡大する必要があります。
 繰り返しになりますが、GDP拡大のための政策的ターゲットは、まずは景気刺激策による需要創出、次いで持続的な設備投資による資本ストック投入量の拡大、と考えます。